〜目指すもの〜 <青学にて>


 俺がいくら絶叫したところで、時ってもんは流れるのである。
…かくして、恐怖の練習試合の日はやってきたのだった。


定刻通りに集合場所に行くと他の先輩方はとっくに俺より先に来ていた。

「お早う御座います。」
、おせぇよ。」
「あーぅ、えろうスンマセン。」
「ホントとろいよねー、って。まさか寝坊したなんて言わないよね、
それともアレ?お弁当詰めてて遅くなったとか。のお弁当いつもおかず
ギュウギュウだもんね、入れすぎなんだよ大体…ボソボソ」
「失敬なっ! 食は大事です!」


 伊武さんに食に関しての俺の主張を述べようとしたら部長が割って入った。

「朝からお笑いはいい。」

 …あなたが真面目な顔してそういう発言をされること自体が既に
お笑いネタです、部長。

「全員揃ったな、じゃあ行くぞ。」

 部長が先頭に立って颯爽と歩き出したので皆、その後についていった。
先輩方はめいめい友達同士並んで歩くが、俺ははぐれない用心に部長の右斜め後ろにくっつく。

歩いている間、誰も口を開こうとしないので何だか周りの空気が張り詰めている
気がした。
いくら練習試合とは言え、全国でも有名な学校を相手にするってのは
緊張するものなのだろうか。

不安がジワリと俺を侵食してきた。



 ふいに部長が口を開いた。

「あんまり横に来られると歩きにくいんだがな。」

 苦笑交じりの声にふと気がつけば俺と部長との距離がえらく縮まっていて、
後一歩のところでぶつかるところになっていた。

そんなこんなしている内に俺達一行は青春学園の校門の前に到着した。



青学の建物はでかかった。部長に連れられてやってきたテニスコートは広かった。
はっきり言って公立中のそれとは比べ物にならない。

「うっひゃぁ〜、ごっついなぁ〜。」

 俺は思わず感嘆の声を上げた。

「だって私立の学校だもん、きっとかなりお金かけてるんだよ、
羨ましいな、うちなんかコートあんまし広くないし備品ボロいの多いのにさぁ、
世の中って不公平だよね…」

 伊武さんがぼやきだしたので俺は慌ててこう付け加えた。

「あ、でも、俺は設備よりも部自体の居心地がええ方が嬉しいです。」

 伊武さんはふーん、と首を傾げた。

「そういや、前の学校でひどい目に遭ったんだったっけ。」
「え、えと…」
「深司、よせ。」

 返答に困る発言をされて俺が口籠もっているとタイミングよく部長が言った。

「こいつに昔のことを思い出させるな。それより、青学のレギュラー陣が
お出ましだぞ。」

 言われてふと目を上げれば、そこには赤と白と青の三色ジャージの集団が
ズラッと勢揃いしていた。

「そうか、あの人らが…」

 その集団が放つ何かに気圧されて俺の脚が軽く震える。部長が整列するように言ったのが聞こえた。
先輩方がぞろぞろ適当に横に並び始め、俺は震える脚で一番端っこの
内村さんの隣に並ぶ。

うちの部長と青学の部長が握手を交わすのが見えた。
青学側の部長は細い眼鏡をかけた切れ長の目の兄ちゃんだった。
雑誌で何回か見たことがある、全国的有名人・手塚国光さんだ。
流石、凄いオーラを放っている。
おそらくうちの部長に引けをとらないくらい。睨まれたら硬直すること請け合いだ。

その手塚さんがうちの部長と一言二言交わした終えた瞬間、俺に視線を向けた。
ボンヤリしていた俺はギクリとした。手塚さんはすぐに何事も無かったように
視線を逸らしたが何とも言いようの無い感覚が背中に残って俺は
かなり落ち着かなかった。

それから初めて俺は気がついた、他の青学レギュラーも好奇の目で
自分を見ていることに。
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さっきからニコニコ微笑みっぱなしの仮面兄ちゃんが面白そうに眺めていた。
剣山みたいなツンツン頭の兄ちゃんとほっぺたに絆創膏をつけた
外はね髪の兄ちゃんがお互いに目配せしていた。
頭の上の方は髪が濃いのに後頭部は刈っている卵みたい(失礼!)みたいな
髪型のお兄さんとルパン3世っぽい髪型の大柄で気弱そうな
(でも中身は強烈に違いない)兄ちゃんが不思議そうな顔をしていた。
俺と同じくらいの背でキャップを被った冷めた感じの奴―
こいつも雑誌で見たことがる越前リョーマ―が上目遣いで見つめていた。

…あのな、お前ら、わざわざ端っこにいる奴を見るなよ。

俺は内心抗議しながらふと、他の連中と違って俺の方など見向きをしていない人が
いるのに気がついた。
頭にバンダナを巻いたちょっと怖い顔のお兄さん。

あれ?あのお兄さん…。

俺はハッとした。
それは、何日か前に道端で喚いていた俺を叱咤したあの人だった。
只モンじゃない気はしていたが青学のレギュラーだったのか…。
しかし、向こうはまるっきし俺に気づいた様子がないが。

いや、それよりもっと気になることがある。
さっきからレギュラーとは別の所からくる強い視線だ。
そっと後ろを振り返ると、レンズの向こうが見えない四角い逆光眼鏡に
ドリアンみたいな頭の兄ちゃんが
俺をレギュラー以上に好奇の目で見つめているのを発見してしまった。

何だか、嫌な予感がした。

この人は、俺の過去を知っているんじゃないかという嫌な予感が。

To be continued...


作者の後書き(戯言とも言う)

何か、この主人公「言われてやっと気がつく」ってパターン多いですね。
作者本人がそうだから仕方ないのか…。

あ、ちなみに時間の流れがすっ飛んでしまっている箇所は主人公が緊張その他で
その間のことを感知できていないことを表しています。突っ込まないでください(笑)

ところで今回青学レギュラーを出しましたが誰が誰だかわかりますかね?
ちょっと描写がボロクソ気味ですがそれは主人公が緊張して強がっているだけであって
他意はないです。

出来れば次回も宜しくです。
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